【フュージョントーク】哲学者と語る因果推論の本質

11.3/10:45〜11:45

【要旨】

因果推論が急速な勢いで統計学や臨床疫学の世界に浸透している。これはこの10-20年の新しい現象である。しかし因果推論は単なるブームではない。また、統計解析の新しいテクニックでもない。
哲学の歴史を紐解いても、因果はアリストテレス、デカルト、ヒュームと古来から探求されてきた概念である。また1970年代にはルイスが、「反実仮想」の概念を用いて因果を分析している。もともと日本語の「因果」という言葉は仏教用語でもあり、そのルーツはインド哲学にまで遡る。このように因果は、洋の東西を問わず、哲学の世界でも様々な形で論じられてきたのである。
現在の因果推論の本質である「反実仮想」の考え方や、因果推論の「新しい言語」とされる「因果ダイアグラム」は、それぞれ1920年代にネイマンおよびライトによって提唱されたが、統計学界から長く顧みられなかった。その50年後、ルービン、ロビンス、パールらによってその価値が再発見され、従来の統計手法では対応できなかった課題を解決できる画期的な理論や解析手法として封印が解かれ、蘇った。因果推論の考え方は、疫学・統計学だけではなく、経済学にも影響を与え、2019年のノーベル経済学賞につながった。
このセッションの前半では、哲学と統計学の両方に精通する大塚氏に、複眼的視点から因果推論の本質やその現代的意義について解説していただく。後半では、キーとなるトピックについて、大塚氏とホストが、因果推論に関する疑問や、因果推論が今後の臨床研究にもたらすインパクト等について議論する予定である。

【ゲスト】

大塚 淳
京都大学 准教授

  • 大塚 淳
略歴:
2003年京都大学文学部卒および2011年京都大学博士(文学)取得。2014年にインディアナ大学修士(応用統計学)および同大学博士(科学史・科学哲学)取得。神戸大学大学院人文学研究科准教授を経て、現在、京都大学大学院文学研究科准教授および理化学研究所AIP客員研究員。専門は科学哲学(生物学の哲学、統計学の哲学)、特に科学研究において数理モデルや統計的手法が持つ役割や、その前提についての考察を進めてきた。著書にThe Role of Mathematics in Evolutionary Theory(Cambridge University Press, 2019)、『統計学を哲学する』(名古屋大学出版会、2020)はベストセラー。Thinking About Statistics: The Philosphical Foundations (Routledge, 2023)がある他、哲学、生物学、機械学習など様々な分野の国際誌に論文を発表してきた。

【ホスト】

福原 俊一
日本臨床疫学会 代表理事
略歴:
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