【生涯教育委員会企画】地域医療を元気にする臨床研究医

11.3/10:15〜11:45

【企画趣旨】

超高齢社会、少子化の時代になり、特に高齢者を多く抱える地域の医療は元気をなくしている。地方住民においては高齢化により医療・介護・福祉的な問題が増加する一方で、以前は地域の医療を守っていた医師も高齢化し、これまでの医療水準を保つことが困難になることが多く、同時に若手医師は技術研鑽やアカデミアを求め都市部に集中する傾向がある。そしてこれらは今後ますます加速していくことが予想される。
そのような現状の中で、人口の比較的少ない地方都市であるにもかかわらず、臨床研究医を育成するプログラムをもち、それを求めて実際に若手医師が集まっている数少ない地域医療の拠点がある。それらの拠点医療施設における臨床研究の主なテーマは地域医療の向上を念頭においたものであり、臨床研究を学びながら地域医療に従事する総合内科や総合診療を実践する若手医師を地域に集める力強い求心力となっている。
本企画では全国でも数少ない、地域で臨床研究医を育成するプログラムを持つ4つの施設の医師に登壇いただき、プログラム構築の経緯、現在の取り組み、今後の展望について紹介いただき、地域医療を元気にする臨床研究医について深堀りし、臨床研究という視点から日本が抱える地域医療再生のヒントを探る機会としたい。

【演者】

佐田 憲映
高知大学 教授

  • 佐田 憲映
略歴:
1997年 岡山大学医学部医学科卒。岡山大学腎・免疫・内分泌代謝内科学にて、リウマチ膠原病・腎臓病に関する臨床・臨床疫学研究・教育に携わった後、2020年より現職。
高知県西部で、地域医療に携わりながら臨床研究を学ぶ「高知県臨床研究フェローシップ」で3名のフェローの研究指導を行っている。
専門は臨床疫学、リウマチ膠原病学、腎臓病学、総合内科学。日本臨床疫学会上席専門家。日本リウマチ学会・腎臓学会評議員。
ANCA関連血管炎診療ガイドライン2023作成統括委員はじめ、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症や急速進行性腎炎症候群の診療ガイドライン、CKD診療ガイドライン2023など、多くのガイドライン作成に携わる。
宮下 淳
福島県立医科大学 教授

  • 宮下 淳
要旨:
2011年の東北大震災後、福島県では医師数が激減した。福島県の医療に活力を与えたいという思いから、福島県外の総合診療/総合内科医を福島県白河市の白河厚生総合病院に集め、臨床と研究の「車の両輪」として質の高い医療を実現し、地域に貢献する画期的なプログラムが2015年に設立された。このプログラムにより、この10年間で総合診療という概念すらなかった地域に総合診療を根付かせ、二次医療圏の中核病院における救急、病棟、外来の医療に加えて、在宅医療も担い、地域医療に大きく貢献している。さらに、診療から生まれた疑問を研究し、福島から世界に向けてエビデンスを発信し続けている。今後も、より求心力のある組織としてプログラムに磨きをかけ、地域に活力を与え続けるとともに、地域から世界に向けてエビデンスを発信し続けていく。
略歴:
2003年、京都大学医学部卒。洛和会音羽病院総合診療科、市立奈良病院総合診療科で総合内科医として勤務。
2015年から福島県立医科大学白河総合診療アカデミーに所属し、総合内科の臨床と研修医教育を行いながら、アドバンス・ケア・プランニングを中心に終末期医療に関する臨床研究を行っている。総合内科専門医、臨床疫学上席専門家。
堀谷 亮介
橋本市民病院 総合内科医長

  • 堀谷 亮介
タイトル:
橋本市民病院が育成する臨床研究医
要旨:
和歌山県橋本市の橋本市民病院では、2015年の総合内科設立と同時に、臨床研究医を育成するためのプログラムが誕生した。橋本市は、大阪・奈良・和歌山の他の中核病院まで車で1時間以上かかる場所に位置し、車を運転することが困難な高齢者も多く、地域で完結できる医療へのニーズが存在した。そこで臓器横断的に診療することができる総合内科医が必要とされ、臨床研究を学びたいという熱意のある医師が総合内科に集まり、臨床研究支援プログラムが始まった。このプログラムでは、週に1日の研究日が確保され、臨床疫学上席専門家による毎週の院内でのメンタリング、月に2回の他地域の臨床研究医との合同カンファレンス、そして年に1回の合同合宿を通して、臨床研究の知識や技術を学ぶことができる。さらに現在、橋本市での地域コホート研究を計画しており、今後は地域に根差したデータでの研究が可能になる予定である。地域での臨床研究を通して、通院していない地域の住民にも思いをはせることができる、地域志向型の臨床研究医の育成を目指している。
略歴:
大阪市立大学医学部を卒業し、市立堺病院(現堺市立総合医療センター)で総合内科や感染症を学ぶ。その後、兵庫県立尼崎総合医療センターで漢方の研鑽を積みながら、総合内科や救命救急センターの立ち上げに携わる。総合内科・救急・漢方の臨床を行いながらリクルートや教育、組織運営にも注力。これらの経験からグローバルな視野を持つことやマネジメント、医療者教育の重要性を感じ、2018年より長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科で熱帯医学修士をおさめ、2019年より現職となる。同時にグロービス経営大学院で経営学を学び、2024年より岐阜大学大学院医療者教育学専攻修士課程に在籍中。
山崎 大
京都大学 特定講師
福島県立医科大学 特任准教授
熊本大学 客員准教授

  • 山崎 大
略歴:
北海道旭川市出身。2008年に宮崎大学を卒業。札幌の手稲渓仁会病院で8年間、消化器内科医として研鑽を積む。2016年に京都大学大学院に入学、福原俊一教授のもとで臨床疫学を学び、2019年に医学博士号を取得。消化器・内視鏡・肝臓・総合内科専門医。日本炎症性腸疾患学会IBD指導医。社会医学系専門医。臨床疫学上席専門家。

【座長】

濱口 杉大
福島県立医科大学 教授
略歴:
新潟大学医学部卒、天理よろづ相談所病院にて初期臨床研修、市立舞鶴市民病院にて総合内科(GIM)研修、関西医科大学にて心療内科研修後、約6年間、北海道の離島を含む僻地で地域医療に従事。2006年からロンドン熱帯医学衛生大学院校で臨床感染症と熱帯医学を学び、熱帯医学修士課程を修了し、2007年から北海道江別市立病院にて総合内科と研修システムを立ち上げる。長崎大学熱帯医学博士課程を修了。2016年10月から福島県立医科大学総合内科。同大学臨床研究イノベーションセンター副センター長兼務。2024年4月から現職。
高齢者肺炎(予後予測、QOLなど)、脊椎炎(診断精度)などの現場のニーズに応じた臨床研究に携わっている。
日本内科学会総合内科専門医、日本感染症学会感染症専門医、米国内科学会上級会員(FACP)